恋色流星群



手を洗ってくるね、と立った洗面所で。

鏡の中の自分に、私は言葉を失った。



重い、瞼の理由。

目に見えた、その理由。





『やば・・・なんだこりゃ。汗』


鏡に映る、ぷっくりと腫れ上がった両瞼。
色白、を通り越して、血の気を失った顔の上で。

殴られまくったお岩さんのように、存在を主張し続ける。



『我ながら、こえぇな・・・。』



こんな、焦点の合わない顔で。
遠慮なく陽斗くんを見つめていたのかと思うと。

かっ、と身体に熱が回って、額に汗を感じた。





ひとまず、化粧水に浸したコットンに乳液を垂らして、全体を拭き取る。

目の下を黒くしたシャドウは、綿棒でぬぐった。




急いで化粧水を戻した手の甲が当たって、一輪挿しの赤いバラの花びらが落ちた。


百花繚乱。
そうは呼べない一輪だけど。

はらりと散った深い赤に。



一瞬、眩暈を覚える。















ていうか。それよりも、この目。
やばい、明日金曜日なのに。

稼ぎ時の花金の夜。
こんな顔じゃ、お客さんも驚いて帰るわ。



冷えたスプーン。
今からじゃ間に合わないかな・・・。

思えば、ズキズキと痛むこめかみを揉みながら、リビングに戻ると。
レオンを抱いていた陽斗くんが、笑顔のまま振り返った。




「あれ?頭痛い?」

『いや、大丈夫。ていうか、こっち見ないで。』


正確に言えば、もう十分見られてるんだけど。

左手で顔を隠しながら、冷蔵庫に直行する。




部屋の照明を。
柔らかいオレンジ色にしてよかったと、初めて思った。

これがコンビニ並みの白熱球だったら。
___________考えるだけで、汗が出る!汗






冷凍庫の扉を開けば、ふわっと機械っぽい香りの冷気が、頬を包む。


冷えピタ。

アイスノン。


これにしようかな。
風邪のときにお世話になる、マジックテープの頼もしいやつ。



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