待ち合わせはあのカフェで



「私、家こっちなんで失礼します」



神谷さんが指さす先、それは俺が住んでいる隣のマンション。



「えっ、神谷さんこのマンションに住んでるんですか?」

「はい。高校卒業したあたりからですけど…」

「俺、隣のマンションに住んでるんです」



あっち。と指をさす。



「偶然ですね」

「いや、本当に」



神谷さんがくすっと笑いだすからつられて俺も笑ってしまった。
近くに住んでるのにも関わらず道でばったり会わないんだね、意外と。



「面白いですね」

「そうですね、本当面白いですね」



今日、一緒に帰らなかったら隣のマンションに住んでるって知る事なかった。
道の途中で会った事もただの偶然だけど
隣のマンションに住んでるって事まで偶然だなんて。



「じゃあ、また。お店でお待ちしてます」

「あ、あの!」



呼び止める理由は何もない。
なのに呼び止めてしまった。どうしよう、何話そう…



「ケーキ!半分こしません?」



これしか思いつかなかった。



「やっぱり何でもないです。忘れてください。またお店で!おやすみなさい」



どうしよう。
どうしよう。

何で呼び止めちゃったんだろう、俺バカじゃん。


動揺しているのが神谷さんにばれる前に逃げたい。
早歩きで、神谷さんから離れた。

すると、俺の名前を大きな声で呼ぶ。
びっくりして、振り返った。



「ケーキ!半分しましょうか!」

「へっ…?」



思考停止。
だって、まさか、そんな事言われるとは思ってもみなかった。



「私のマンションの一階に共同ラウンジがあるんです。行きましょ」
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