オフィスの野獣と巻き込まれOL
「ママにも息子がいるのよ。
薄情な息子で、アメリカに行ったきり戻ってこないんだって。
ハガキ1つ寄こさない、酷い息子だってね」
私が、ママのネタを話す。
これは、普段ママが自分から、お客さんに向かって話してることだ。
ここの客はみんな、ママが会えない息子の写真をずっと、肌身離さず持っているのを知っている。
息子を思うあまり、通りかかった見ず知らずの若者に、お節介なほど口を出すのを知っている。
「まあね。親も親だったからね。私のような親なんて、当てにならないと思ったんでしょうね」
こんなにしんみりして、物思いにふけったりして。
こういう時は、幼い息子の面影を思い出しているお婆ちゃんにしか見えないけど。
この人は、凄い人だ。
誰かパトロンについてもらう訳でもなく、たった一人で店をやっていくのは並大抵ではない。
若いころは、無理を言う客にはその筋の人にだって
『とっとと帰っておくれ!』とたんかを切った人だ。
あったかくって、ハートもある。
私の大好きな人だ。
淑子ママは、店に全力を注いで頑張って来たんだ。
そんなギリギリの状態で頑張って来たのだ。
家族を犠牲にしてしまうのは仕方ない面もある。