オフィスの野獣と巻き込まれOL
私は、淑子ママにさっき寄った店の事を話した。

ママは、事情を少し知ってるみたいだった。

いつものように、はっきりとは言わないけれど。教えていい範囲で教えてくれた。

「きっと『バンス』の分が、結構あったんしょうね」ママが気の毒そうに言った。

「何か聞いてる?」私は、淑子ママに向かって言う。いいえとママは答えた。

『バンス』というのは、ようするにツケとか借金のことだ。

回収できない売り上げを残して店を移ったりすると、「バンス」といって新しい店がその分のお金肩代わりすることがある。

「あの店だけでなくて、リーマンショック以降は、どこの店も大変だったのよ。
この界隈もずいぶん変わったでしょう?」

「ええ」

「それから、ママ……
実際に店でお酒を飲んでないのに、領収書だけ切るってことある?」

ママは、大きく目を見開いて言う、

「そんなことしたら、こっちまで悪いことの片棒担ぐことになるでしょう?
私がしっかりしてるうちは、この店で、そんな事させやしないよ」

「うん」そうだよね。やっぱり、叔子ママは、間違ったことをしない。

新しい客が来て、ママが席を離れたすきに、私はキモに話しかけた。

「実際に飲み食いしてない分まで領収書として渡すのって、店側にもリスクがあるのよね?」

キモも頷く。

「もし、あの店が本当に、領収書を切ったんならな。そんなことしたら、何かに巻き込まれる可能性だってある」

「どうしてそこまでするのかな?」

「見返りを貰うか、無報酬でもそうしたくなる相手だから、リスクを冒すんだろう」

「そう、だよね」

義彦君は、あの綺麗なママさんとも、特別な関係なんだろうか。
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