オフィスの野獣と巻き込まれOL
そろそろいい時間だ。

バーに誘うまでもなく、先に帰ると言い出すかも知れない。

腕時計をちらっと見た私に、キモ川が尋ねてきた。

「この後の予定は?」

声だけは、ぞくっとするほどいいけど。

相変わらず、無表情で能面みたいな顔。

しかも、メガネの奥まで何も見えない。

「特に考えてないですけど。
時間が許すなら、もう一杯くらいお付き合いして欲しいかな」
と、私は心にもない事を言う。

言っておくけど。

私は、それなりの外見を保っていて、デートに誘ってくれる相手だっていないことはない。


今日だって、精いっぱい着飾って新調したワンピースに、髪もきれいにセットしてここに来た。

それなのに。無視され続ける。この男、ほんと癪に障るのだ。

こんな苦痛が続くのなら、無理でしたと降参しよう。

キモだって、そうだったんじゃない?

詰まらなさそうに、むっつり黙って。

しゃべりたくない女とこれ以上一緒にいたくないでしょうから。


ひょっとしたら、予定を聞いてきたのも社交辞令で、彼、断ってくるかも。

お願い。もう帰るって言って。

いいから、早く断れ。



願いを込めて、わざとらしく微笑んだ。

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