オフィスの野獣と巻き込まれOL
「美帆……
じゃあ、どうして私に何も言ってくれなかったの?」
「どういう意味?」
亜美は、前のめりになって言う。
「心配に決まってるじゃない。
美帆みたいなきれいな人が、ずっと山科君の横にいて、気持ちが傾かないわけないと思う」
「亜美ったら、本気でそんなふうに思ってるの?」
私は、声を絞り出して言った。
「私が心配してるのは、全く根拠がない訳じゃないでしょう?」
「根拠ってなに?」
「山科君、入社してしばらくは、美帆のこと好きだったのよ。知ってる?」
私は、ビールを吹き出しそうになった。
「何言ってるのよ。そんなの亜美に対するカモフラージュだって」
冗談はやめて欲しい。
もし、そうだとしても、そんなことどうでもいいのだ。
私には山科君より、亜美の方がはるかに大切なのだ。
亜美は、取り換えが聞かない。
たった一人の女友達。
「山科君、私が好きだって言う方が、カモフラージュだと思うよ」亜美が静かに言う。
「それはないって。だって、山科君といても、そんな雰囲気になったことないし……」
多分。そうだったと思う。
そんな、恐ろしいこと言わないでよ。
「美帆は、銀座のクラブで働いてたことだってあるから、私みたいな平凡な女が敵う訳ないもの」
「以前は、よくそんなふうに言われてたことあったな。
入社してすぐ、「おみず」って陰であだ名されたし。
でも、私、嘘ついたことある?
昔は、山科君んもそう思ってたかもしれないけど、今はそうじゃないでしょ?
亜美ったら、彼の言葉も疑うの?
私が側にいるだけで、彼のこと信頼できなくなるの?」