オフィスの野獣と巻き込まれOL
首筋に温かい息がかかって、私はぶるっと身震いした。
息がかかったところが、くすぐったい。
これだけ近いと、しっかりと固めた整髪料の匂いが漂ってくる。
確かに……
彼の隣にいると、押さえようとしても、いろいろな感情が沸き起こってくる。
でも、この匂いは、いわば……
感情を、一気に削がれる匂いだ。
凄く惹かれると、一ブレーキがかかって、踏み留まらされる匂いだ。
課長に一度、そんな格好しなければいいのに、と聞いたことがあった。
『虫よけには、強力だからな。これでも結構効果があるぞ。
寄ってくる社員が減った。
これのおかげで、だいぶ放っておいてくれる』
『虫よけって、酷すぎる』
『一日に何度もお茶を持ってこられても、そんなに飲めやしないし。
見られたくない資料もあるから、どうしても作業が中断される。
それに、俺は、職場の人間関係の活性化にも興味がない』
『それなら、何に興味があるんです?』
『仕事に決まってる。それ以外に何がある。
俺は、限られた期間に、しなければならないことをする。
寄ってくる連中に関わっていられない』
『会議室に籠って、鍵を閉めてれば重役も入ってこないけど。
よくそれで、重役から文句が出ないのね?』
『文句は出てるさ。聞いてないだけで』彼は、くすっと笑った。
『ただの中間管理職のくせに、態度がデカい』
こっちが心配するほど、相手の事を気にしていなかった。
『よく言われるよ』