オフィスの野獣と巻き込まれOL
機嫌悪いのか……。
京都行の電車に乗り込んでも、課長ずっと黙ったままだった。
車窓から外の景色を眺めていても無表情。
一人で電車に乗っているみたいに、話しかけてこない。
話しかけてくれないからと言って、退屈していた訳ではない。
彼が何も言わないのをいいことに、いつもより一歩近い位置に立ってみた。
課長は、私なんか目には入らないという感じでいるけど。
私にとっては、それは好都合だった。
『成田』って声をかけられたら、
『何ですか、課長』って、すぐに聞き返せる位置にいるし。
いつもより、彼の体を近く感じる。
ほんの少し手を伸ばせば、彼の腕に手が届く位置だ。
オフィスだと、逆に距離を置いてしまう。
特別な感情を持っているから、気持ちが表に出てしまいそうになるのだ。
課長が、息抜きに顔を上げた時、彼の方向を見ているとうっかり目が合ってしまう。
ふいに目が合ってしまうと、気まずくなる。
だから、彼の視線に入らないように、振り向かなければ見えない位置で作業するようになった。
『成田、おい。聞こえてるか?』
課長は、そう言って私の名前を呼んて用事を言いつける。
わざわざ、私のために振り返ってくれるのが嬉しいのだ。