オフィスの野獣と巻き込まれOL
「それなら、聞くが。
君は、俺を、上司以外の人間だと思った事あるのか?」

「思った事なんかない。

あなたは、私に仕事をしろと依頼する人よ。

それだけの関係。寝たりなんかしない」

荷物を持った腕を手繰り寄せて、課長が私を抱きしめた。

欲望から抱きしめたというのではなくて、引き留めたいという気持ちで私を捕まえているのが分かった。

彼は、必死で手放すまいと私を抱きかかえている。

声をかすらせて、どこにも行くなと懇願するように小さくつぶやいている。



「俺は……

君のこと、部下だと思う前に、一人の女性だと思う。

部下だなんて一度も思ったことない。

そばにいたら、無視できなくて。つい手を伸ばして触れたくなる。

目の前をうろついてたら、捕まえてキスしたくなる」


「キスなんか、されたくない」

冗談じゃない。

体が合うとか、好みだとか、そういう理由で見られたくない。

欲しがる理由は何でもいいけど。

欲望だけは意味がない。

欲望は、嘘のように一まで重要だと思ったものが、重要じゃなくなる。

欲望はそれが満たされると、後はどうでもいいものになり、これまで必要だったものが必要じゃなくなるのだ。
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