オフィスの野獣と巻き込まれOL
引っ越し業者の人が、祐一さんの指示に従って段ボール箱をどんどん積み替えていく。

見慣れたベッドが運び込まれて、「あっ」と声に出た。

「そ、それ、私の荷物!」

「だから、さっきから君の荷物を、こっちに運ぶって言ってるだろう?」

なに聞いてんだっていう勢いで、彼が振り返った。

そういわれましても。

そんな説明、全くしてないじゃないですか。

「祐一さん」

大方荷物を運び終えてから、彼を呼んだ。

親切でしてくれたことかもしれないけど。

ここまでしてもらう道理はない。

毅然とした目で彼を見つめた。


彼は振り返って私の表情を見ると、さっと顔色を変えた。

柔らかい眼差しが消えて、表情が厳しくなった。

「気に入らないのか?」

「いいえ、何も勝手に運び込まなくても……」

「それは、悪かった。君に相談しなかったことは、謝るよ」

「うん」

「でも、説明くらいしてくれてもいいだろう?」

彼は、そういうと、指が食い込むほど強く私の腕をつかんだ。

「説明って何のこと?」

「どうして、あいつの言うことばかり聞くんだ?

なんで、義彦と一緒にいるんだ?

お前、まだ、あの男の愛人を続けるつもりか?」

愛人?

この人、私のこと本気で義彦君の愛人だと思ってるの?


「愛人なんて、どうしてそんな、ひどいこと言うの?」

「ひどい?ひどいって、それは事実だろう?

自分の家財道具全部持っていかれるって、どういうことだ。

鍵でも渡してるのか?

それとも、いまだに奴は君の部屋に入り浸ってるのか?

まさか、まだ……奴の自由にさせてるんじゃないだろうな」

「やめて。それ以上言うと、本気で怒るわよ。

部屋を探してくれたのも、保証人になってくれたのも義彦君だったの。

彼が不動産業者に命令すれば逆らえないのよ。綿貫グループは、大口の取引先なんだから。

それに、荷物を運ばれたのは、私の意志じゃない」
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