オフィスの野獣と巻き込まれOL
「それなら、ここにいればいいじゃないか」

彼は、わたしの返事を聞いてほっとしていた。

「私は、あなたのものじゃない。勝手に命令しないで」

でも、疑ってたことには変わりがない。

私は、彼のことを振り切った。

とりあえず、荷物はあきらめよう。


「そうやって、無理やりいうことを聞かせようとするの大嫌い」

「じゃあ、どうすればいい?君こそ説明しろよ。

俺のどこが気に入らないんだ。

これだけ頼んでるのに、どうしてあの男と一緒にいるんだ?」

縋りつくように、抱きしめる。


「頼むから、出ていくなんて言うな。誰のところにも行かせない」

絞り出すような、苦し紛れのやっと聞き取れる声だった。

でも、確かにそう聞こえた。


「気に入らないのは、大事なことを、はっきり言ってくれないところだわ」

彼は、私を抱きかかえたまま言う。

「はっきり言って、断られたらどうしてくれるんだ。
別の男の方が好きだって言われたら、俺、どうしたらいい?」

「うそよ。そんなこと思ってるわけないでしょう?いつも自信たっぷりなんだから」

「自信なんて全然ないよ。それに、君って捕まえようとすると、どこかに行ってしまう」

「言ってもらわないと分からないわ。あなたが私の事どう思ってるのか」

お互いに見つめ合った。

今度は、ちゃんと言ってくれるだろうか。


「そんなの。言わなくてもわかるだろう……」


「ああ、交渉は決裂ね。よく考えて。

私、もう、あなたのような人に振り回されるの嫌なの」

足のしびれもなくなった。

もう、この手の人に人生をかき回されたくない。

平凡に着実に歩んでいくんだ。


「どこに行くんだ?」

「だから、どこか泊まるところ……」

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