オフィスの野獣と巻き込まれOL


あの時のこと、皮肉の一つでも言ってやろうかと思ってた。

実は、堀川課長に、嫌みの一つや二つをずっと頭の中で考えていた。

飛び切りキッツい言葉を浴びせれば、彼の憎たらしい顔を少しでも歪められるかも知れない。


その、ふてぶてしい口から、負け惜しみの言葉がきけるのではない。

私は、彼が乗り込んでからもそのままエレベーターの中にいた。

彼は、すんなり私と入れ替わりに入って来た。

少しは思い出してくれると思ったのに。

彼は、ずっと私のことを無視していた。

面識のない、顔も知らない会社の同僚に対するふるまいだった。

驚いて、彼の様子を下から盗み見たけれど、こっちを気にしている様子はなかった。

どういうこと?


私の方は、いきなり出くわして、死ぬほど驚いたというのに。

彼の方は、ボタンを押したまま留まってる私に、「ありがとう」と言ってきた。

丁寧だけど。まるで早く出て行けと言わんばかりの冷たい言い方だった。

キモは、私を外に出すように促したのだ。

ほんの数日前の事なんか、何もなかったみたいに。


「上に行きたいんだけど、君も行くのかな?」私の態度に、彼も少々イラついてきた。

「いいえ」私は、エレベーターから降り、失礼しますと言ってその場を辞した。


どうして?

意味が分からない。


彼は、私のことなんか、気付いていないみたいだった。

気が付いてないんじゃなくて。まったく知らない人みたいな反応だった。

目が合っても、私の顔をよく見ようともしなかったし。


まさか。気が付いていないの?

それとも、関係ないと思った人間は、都合よく見えなくなってるの?
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