オフィスの野獣と巻き込まれOL


「あのさあ。さっきからブツブツ独り言いってるけど。

お昼ごろまでの俺の記憶では、君、しおらしく涙ぐんでなかったか?」

さっきのキモから受けた屈辱で、頭に血が上っていた。

山科君を前にして、私はビールを一気に飲み干した。

「ねえ、美帆ったら、聞いてるか?」

「聞いてるって」

私の気持ちは、収まるどころか煮えくり返ってる。


ロビーで呆れながら待っている彼と一緒に店に入った。

山科君は、結構、店を選ぶセンスがいい。

彼が来るときは、予約からお勘定まで全部頼んでしまう。


彼の方も、他人にずさんな会計をされるより、きっちり自分で仕切る方が気が楽な性分だ。

いつもは山科君、亜美を相手に話してて、私は、好きな時に二人の会話に加わることが多い。

今日は亜美がいないので、山科君相手に不満をぶちまけてた。


「美帆、何があったか知らないけど。ジョッキ空だよ。おかわりは?」

山科君は、それほど驚きもせず、私にいたわりの声をかけてた。



この人は、時々、人がいいのか悪いのか分からないと思う事がある。

もちろん、私は、山科君ほど複雑に出来ていないから、彼のすべてが分かるわけじゃないけど。


世の中の人間のほとんどが、自分よりも複雑にできているというのに。

誰に適うっていうのだ?

山科君だけじゃない。キモにだって全然敵わなくって、適当に遊ばれたくせに。

キモに、いいようにあしらわれて。

彼にもて遊ばれたんじゃないの。

勝手な男に出くわしただけ。よくあること。

酷い目にあうのは、私だけじゃない。

だとしても。最後に優しい言葉の一つもかけてもらえないなんて。

だめだ。マイナス思考のスパイラルに迷い込んでる。
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