オフィスの野獣と巻き込まれOL
「あっ、また落ちこんだ」山科君が、新しいビールジョッキを目の前に置いた。
私は、ビールを飲みながら、お通しをつまんで、ブツブツ言って自分の世界に浸っていた。
山科君に昨日のこと、話す勇気はまだなかったのだ。
「なによ。私が泣いてるところ、もっと見たかったの?」
「そうじゃないよ。分かってるだろう?友人として、心から心配してただけだ」
山科君とは入社以来、貴重な友人関係を保っている。
私は、見た目が派手なうえ、単純な性格だ。
それもあって、私に近づいてくるような男は、はっきりと男女の関係が目的だとわかる男が多い。
そう言う男しか知らない私にとって、どんな時も紳士的に振る舞ってくれる山科君みたいな男性は珍しかった。
もちろん、彼も純粋な人助けの精神だけで、私と友人でいるわけではないんだけど。
山科君は、隙あらば私の腿に手を伸ばしてきたり、キスを盗もうと顔を近づけて来るような男と違う。
まあ、彼の目的は私ではない。
それが分かってるから安心していられるんだけど。
「あのさあ、美帆。悪いこと言わない。義彦君のことはっきりしろって」
義彦君というのは、綿貫義彦、うちの会社の専務取締役の事だ。
専務と言っても、30代後半の若さだ。
そんな若さで重役になったからと言って、すこぶる有能で出世したというわけではない。
義彦君は、一般社員からも『義彦君』と呼ばれている。
その事からも、義彦君の社内の立場は想像できる。