オフィスの野獣と巻き込まれOL
その点、大きな会社の専務である義彦君は、典型的な優良なお客さんだった。
お酒が入っても紳士的だし、ホステスに対しても優しかった。
その上に、苦学生だった私のことを色々心配してくれた。
そんな義彦君のこと大事にしているなら、この店のママは、私たちのことを隅に追いやったりしないだろう。
それに。
よく見るとこの店も、内装は豪華だけれど、どことなく古めかしい。
ソファも店の調度品も高級でいいものだけど、何十年も前のものに見える。
「そろそろ出るか……」
キモ課長が欠伸をしながら言った。ここにいても、得るものはないだろう。
「ええ」
キモが上着を着て、立ち上がった。私も彼の後に従った。
帰ろうとしたのを察知したのか、ママが席を離れてやって来た。
「あら、もうお帰りですか?」
ちっとも名残惜しくない、あっさりとした態度で言う。
『いいかい、心にもないことを言うんじゃないよ。
そんなのすぐに顔に出るからね。
誤魔化そうったってそうはいかないよ。
人相手の商売って、そんな簡単なものじゃないんだから』
淑子ママが懐かしくなった。
「いい店だって聞いたんだけどね」
キモが珍しく辛辣な事を言ってる。私も同じ意見だ。
「もし分けありませんわ。たいしてお構いも出来ませんで」
顔だけはにこやかにほほ笑んでいる。
申し訳ないなんて思ってないだろう?
口には出さないけど、キモと私は、顔を見合わせた。