臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
「足が汚れるよ、西澤さん」

私の名前をしっかり覚えていてくれたらしい会長が、そう言って苦笑する。

「足は洗えばいいですし、ストッキングは替えればいいだけです。パンプスで土の上をよたよた歩いて、畑を台無しにしてしまうよりはマシですし」

せっかく綺麗な畑に、頭から突っ込むのは避けたいし……他の意味では色々と突っ込みたいけど。

「ふむ。ならば今度はあんたの長靴も用意しておこうかね……。とりあえず、ワシに何の用かね?」

とてもひょうきんに目をくりくりさせた会長が、持っていた湯飲みをベンチに置いた。

「はい。緊急の役員会議をお伝えしに参りました」

その言葉に、徐々に会長の視線が鋭くなるのが見える。

ああ、一代でここまでの会社を興した経営者の顔だ。


「隼人がそう言ったかね? 緊急時だと?」

「いいえ。社長は“13時から役員会議をする”と仰られておりました。それから会長を“呼んできてくれ”と」

会長は渋い顔をしながら立ち上がる。

「ふむ。着替えたらすぐに行くと伝えておいてもらえるか」

「かしこまりました」

会長が小さな家に入るのを見届けてから、鉄扉まで戻る。

それから足の裏についた土を軽くほろってからパンプスを履き……畑を振り返った。


私、社長や副社長は変わり者だなぁと
思っていたけど……。

なんてことはなくて、その大元がそもそも変わり者だったのか。

溜め息を付きながら鉄扉を抜けると、そっと、厳かにその扉を閉めた。




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