臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
社長と私の顔がめちゃくちゃ近い。

社長は私に覆いかぶさるようにしているから、小杉さんの後ろ姿も視界から遮られているし、ルームミラーも見えない。

……と、言う事は、小杉さんの視線からではこちらが何をしていようが、完璧に死角になると言うことですか?


人間、驚き過ぎたら“声を失う”って言うけど、本当らしい。

微かに香る麝香の匂いと、どこか甘い社長の吐息。

私といえば、目を見開いて、唇を一文字にしながら固まるしかなくて……。


「小杉は俺達を“付き合っている男女”だと思っているんだ。キスくらいは目を瞑ってくれるだろう?」

超小声の囁きが、耳朶をくすぐってきて背中がゾワゾワする。

「土曜日の事にしても、お前は無防備過ぎるんだよ。当然のようにしてお前が帰ったから。勝子さんは不思議がっていたし」

土曜日……土曜日ってあれか。

社長が“暗いと眠れない”とか言った日のことか。

「一部以外の人間にとって、お前はそろそろ“俺のもの”なんだよ。少しは自覚しろ」

そんなもの出来るわけがないじゃないか。

私と社長の間では“恋人同士じゃない”ってわかっている事なのに、それを自覚しろとか言われても……。


「嫌なら押し退けるくらいしろ」


社長はそう言うけど、だって……でも。


嫌じゃないから困るんだ。
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