臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
「随分、具体的になったな」

ええ。まぁ、いろいろ考えたら、そうなるっていうか。

でも子供は授かりものだし、もしかしたら一人目が授かるまで、数年かかるかもしれない。

もちろん思うように……は、いくはずがないんだろうけど。


夢を見るだけなら簡単だ、その夢にいかに近づけるかは、自らの努力だと思うし、何もしなければ何も始まらないだけでダラダラするだけだし。

社長に対する思いに、見切りをつけるのもその一つだと思ってる。

「ですから……」

右手に身につけたリングを見下ろすと、ゆっくりとそれに手をかける。

冷たい感触が指先に伝わって……少しだけ躊躇った。


これは特別なモノじゃない。


そう思って引き抜くと、あっけなく指輪は抜けてしまう。

何もない指はなんとなく寂しくて、どこか違和感があった。

でも、これをいつまでもしているわけにはいかない。


テーブルにコトリとリングを置き、社長の方へ差し出すと、彼は真顔でソレを見つめた。

「……特別ボーナスだと言わなかったか?」

「それなら洋服も頂きましたし、ピアスも真珠のネックレスも頂きました」

「それならこれも、気にせずに貰っておけばいい」

それは“何とも思っていない”から、言える言葉なんだろうなぁ……。
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