私、今から詐欺師になります
「茅野」
はい? とこちらを見た茅野に、
「いや、なんでもない。
行くぞ」
と穂積は言った。
はい、と茅野は素直についてくる。
エレベーターに乗る前、振り返ると、茅野は秋本とかいう受付嬢と目を合わせ、頭を下げていた。
受付嬢もまた、頭を下げ返す。
そんな和やかな光景を見ながら、穂積は溜息をついた。
初めて茂野と居るところを見たが、とんだ仲良し夫婦じゃないか。
一体、なんの不満があるんだ、この女、と何故か、秀行の立場に立って考えてしまうのは、いつか自分もそうなるのではないかと不安を覚えたからだ。
『俺と結婚したから、俺に不満があるだけだ。
古島と結婚してたら、古島のアラが見えて、たまたま通りかかった俺に声をかけたくなるだろうよ』
あの秀行の言葉は、かなり真実に近い言葉のような気がする。
自分も秀行もたいして違わない人間のような気がしていたからだ。