乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)

 ぬいぐるみを退けて、出窓となっている窓ガラスのスペースを掃除する。

 ぬいぐるみ事態は埃まみれにはなっていないが、スペースには埃がたっぷりとたまっていた。

 スペースの掃除が終わりアトリエの中を見渡すと棚には、色々な種類のぬいぐるみが並んでいた。大きなものから小さなものまで、愛くるしい表情で、杏樹を見つめている。

「あ~あ。企画で使いたかったなぁ…。」

 ボツりと呟く杏樹の瞳には、うっすらと涙が。

 杏樹は、オフィスーリアンーというイベント・プロデュース会社に勤務し、4年になる。

 ーリアンー 杏樹はフランス人とのハーフのため、その単語に馴染みがあり、会社名をきいた時、ここに入りたいと思った。

 人と人との絆を大切にしたい旨から、この名前にしたと社長が入社式で話していたため、絆はあっても裏切りはないと、何処かで思っていた杏樹は、企画を奪われた悔しさはあるが、1日経つと可愛がっていた後輩に裏切られた喪失感に襲われたのだ。

 しかも、4年一緒にやって来た仲間に、あんな風に思われていたなんて。

 美大に通っていた杏樹は、開発希望者だった。色々なイベント"で自分がデザインしたものを使いたい"そう思っていたのに、採用されたのは企画課で、落胆しているのを慰めてくれたのも、企画課のみんな。

 初めて企画が通ると、自分のことのように喜んでくれたのも、企画課のみんなだったのに。

 今回は、会社初のウェディング企画で、杏樹はとっても張り切っていた。

 新しいホテルが出来るため、その目玉となる企画を、四季と一緒に変わるチャペルの壁画と考えており、画家の当てもあった。

 でも本当は、もうひとつ小さな目玉も準備していたのだ。ウサギのウェディングアイテム。これは、当てがなかったのだが、目の前の大きなウサギを見て、早く出会いたかったと思ってしまう。

「でも…そしたら、奪われていたかもな…。」

 杏樹はため息をつき、うるっときた涙を手で拭い、思わずぬいぐるみを抱き締めていた。

「本当、この子達には癒されるわ~。」

 そう、言いながら掃除を開始する杏樹を、じっと雅輝が見つめていたことには気が付かなかった。
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