乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
「うちの商談相手だったとは。…ね、…。」

「俺は関わりないよ?悠一か絡んでるだけ。」

「またまた、そんなこと言って。」

 二人は意味深な会話を交わし、悠一が思い出したように話した。

「俺、ちょっと見たけど、画家の名前はクリスフォード・アラン氏だったと思うよ?滅多に契約しないことで有名だから、担当者もそれが可能ならってひとつ返事だったみたいだけど…。」

「クリスフォードって、あのフランスで活躍してる?」

「あぁ。間違いなくうちの目玉になるだろうけど。」

「……どうやってアポ取ったんだろうね。」

「ま、杏樹ちゃんは俺のこと聞かないし、商談相手だとは思ってないから色々話してくれたんだろうけど、こちらとしても黙っていられない状況かもね…。」

 二人は黙って、まだ、アトリエから戻って来ない杏樹に視線を向けた。

 オフィス R ーラポールー それが、今回の杏樹の商談相手だった。

 来年度に向け、新たなホテルウェディング事業を行うために、色々な企業と商談をし、最終審査まで残り、やっと契約にこぎ着けたのが、杏樹の会社だったと言うわけだ。

 悠一はそこに勤めているが、まさか、企画者が知り合いのアトリエに転がり込んでいることに驚いたが、興味を持った。

 雅輝のことを受け入れていること。

 雅輝が杏樹をここに置いていること。

 そして、クリスフォード・アランをどう口説き落としたのかも。




 杏樹はこの時、思いもしなかった。

 雅輝とはどんな人なのか。

 悠一の仕事のことも。

 ただ、この生活に、居心地のよい安らぎを感じでいたのだった。
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