乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
 その後、人事部課長の悠一から杏樹は辞令を貰う。

「立花杏樹さん。今日から、ウェディング企画室勤務、兼副社長の通訳アシスタントを命じます。宜しくお願いします。」

 悠一から辞令を貰い、それと同時に自分用の名刺、ICチップが埋め込まれた顔写真付きのネームカードを渡された。

「こちらこそ宜しくお願いします。…で、副社長はどちらに?」

 杏樹が悠一に窺うと、悠一と社長がくすくすと笑いだした。

「俺だよ…。」

 ちょっと不貞腐れた様に呟く雅輝が、横で腕組みしていた。



 悠一と先に部署に戻るように言われたが、悠一の声かけで、社長室の階にあるカフェスペースで一服していた。

「さっきの杏樹ちゃんの顔、めっちゃおもしろかった!」

「だって、ラポールの副社長って知らなかったんですもん、しかも息子さんだなんて…びっくりしちゃって…。」

 不貞腐れた雅輝に対して、杏樹は副社長が雅輝であると知ったとき、鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていた。

 それを先程から蒸し返されるのだ。

「最近なんだよ。着任したの。だって、あいつはアトリエで本当は仕事したかったんだし、でも、あいつが決めたんだから、あとは支えてやろうな。」

 悠一の切なげに笑う顔が、何を言いたいのか分かってしまいそうな杏樹は、ただ微笑み返すしかなかった。

「よし、行こうか!ウェディング企画室は、社長室と同じフロアなんだ。この階は、社長室、副社長室、人事部、ウェディング企画室のみになるから、空き部屋は資料の保管に使ってるけど、ほぼ空いてる。恋人との逢瀬には持ってこいだね。」

「会社でそんなことしないでしょ?」

「さぁね、わかんないよ?」

「冗談はそのくらいで…。でも、なんでこのフロアだけガランとしてるんですか?」

「うん、託児所付きの会社にするつもりだったんだけど…色々とあってね…。」

 そうですかと、相槌をうとうとしたら、悠一の顔が険しくなりその視線をたどると前から年輩の男性が歩いて来るのがわかる。

「七瀬くん。こちらが例の?」

「今日から、ウェディング企画室兼副社長の通訳アシスタントの立花杏樹さんです。立花さん、こちら、専務の飯島です。」

 悠一がいつもと違う口調で改まって話すため、不思議に思いながらも、"立花です"と会釈すると、専務は、上から下をなめ回すように杏樹を眺めたた。

「君の噂は聞いてるよ。いい噂ももちろん色っぽい噂も。だからって副社長を誘惑するのはやめてくれたまえ。副社長も婚約やめてまで惚れてる女がいるらしいから。君も、そこら辺わきまえてくれ。」

 悠一が横で"チッ"と舌打ちするのが分かる。

「私は、ここでも有名人なんですね。誘惑するならとっくにしてます。すみません、色っぽい話がなくて。」

と、微笑むと、専務は"ふん"と言いながら横を通り過ぎていった。
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