乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
 その頃、あやめはオフィスRーラポールーから出て、外から会社を見め、知らず知らずのうちに指を口に持っていき、爪を噛んでいた。

ーあやめ、連条雅輝との縁談は、必ず成功してもらえなければ、困るんだよ。わかってるよな?あやめ。ー

 低い声で威圧感たっぷりで、優しい言葉とは裏腹で、有無を言わさないようにあやめを、睨み付けるような瞳に、ゾッとしたのを思い出す。

ーお父様!連条さんは、私には見向きもしません!ー

ーさせるんだよ!何でもいい!既成事実でも作ってしまえばいいんだよ。ー

ー……そんな。ー

ーこれは結城財閥に必要な事項なんだ。決定事項だ。分かったな。ー

 
 昨夜の父との会話を思いだし、あやめはまた、爪を噛む。皆、あやめはお嬢様だから苦労知らずと思っているが、そうじゃない。お金はあるが愛は知らない。地位や名誉はあっても、友達はいない。父の命令は絶対。そんな家庭で育ったあやめは、自分が、幸せになるためには雅輝との結婚は絶対だ。

「私、あきらめないから。」

 あやめは、雅輝も自分と同じだと、勘違いしていたのだ。

 自分と同じで自由もなく窮屈な生活をしていると思っていた。なのに、そうじゃないことに気が付かされた。杏樹の存在を隠すことなく、堂々と杏樹と一緒にいる姿を見ると、羨ましく、嫉妬してしまい、自分も大事にされたいと願ってしまったのだ。

「私の幸せのためにも……。」

 あやめは手を握りしめ、決意を新にしたのだ。


 それから数日後、あやめが筆頭株主になり、あやめの意図しない形で、雑誌が父の策略によって発売され、雅輝と杏樹を取り巻く環境が変わって行くのだった。

 杏樹を守りたい雅輝。

 雅輝を信じている杏樹。

 雅輝をものにしたいあやめ。

 濁流にのまれるように、目まぐるしい日々が待ち受けていた。

 
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