乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
二人の過ごす別々の日々
 杏樹は、アトリエの雅輝の部屋を眺めてため息をつき、ケータイを眺めては、また、ため息をつく。

「何度目よ!?」
「何度目~!!」

 杏樹のため息に何度も何度も、こうやって話してくるのは、アトリエに泊まりに来ていた絵梨となずなだ。

「今は、連条さんも大変でしょう!?」
「悠ちゃんも大変だもん。でも、そのおかげで、女子会出来るんだけど。」

 数日前に遡る。
 
 あの雑誌が、あやめの意図しない形で、あやめの父の策略によって発売されたのだ。
 
 それにより、アトリエに帰って来れなくなった雅輝は、実家に帰り、雅輝が実家に帰っている間、絵梨となずなは杏樹の様子を見るために連日連夜、アトリエに泊まりにくることになったのだ。

「あの女、雑誌は書いとると思ってたんだけどな。連条さんにあそこまで言われて、悔しそうだったのに。」

 なずなが首を傾げながら不思議そうに話す。

「父親よ。」

 絵梨が嫌そうな顔をしながら言う。

「結城財閥の結城社長とあの子は血の繋がりはないのよ。身寄りのないあの子を引き取り、淑女に仕上げたのは、後々の立派な跡継ぎと結婚させるため。小さい頃から常にパーティーとかで傍らに置いて、溺愛パパを演じてるけど、あれはパフォーマンスよ。強かなゾッとするような父親よ。だから、父親が雑誌を発売させたのよ。自分のためなら何でもするような人よ。」

 捲し立てながら一気に話す絵梨をふたりはポカーンと見ている。

「何でそんなこと知ってるの?」

 二人が絵梨の迫力に圧倒されながら、おずおずときく。

「昔のターゲットは渉だったのよ!!あー昔の事だと言えどむかつくわぁ~!!」

 絵梨がおつまみのピーナッツを乱暴に、口にほうばる。

「あっあの、会社の前で絵梨に札束投げ捨てた人?もしかして!?」

 杏樹が思い出したように絵梨に話しかけると、そうそうと首を縦に震る。

「あれは最悪だったよね。」

「そうそう。杏樹がギャフンと言わせたんだよね!」

「イラッときて、札束を突き返して、スパーンと言ったら私、ぶたれちゃとたよね!」

 あははっと笑う杏樹を苦笑いした絵梨と、呆気にとられるなずなの姿があった。

「杏樹ちゃん!もしかして、まだ地を隠してるの?」

 なずなは杏樹の顔を覗き見ながらきく。

「まだまだ、私、毒舌だからね!」

 にこっと笑う杏樹につられ、なずなは笑顔になったものの、一番怒らせるとやっかいな相手だと気がついたのだった。
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