乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
 杏樹と二人きりになると、クリスフォード・アラン氏のことより、杏樹を求める声が出る。

「…杏樹。」

「ボス…。難波さんがあそこまでするなんて…。」

「…肩かして。」

 雅輝は、杏樹を引き寄せ抱き締めながら肩に頭をポスンと預けてくる。
 
 連日、結城財閥との記事で記者に追い回され、実家に帰るとあやめから連絡が来たり、時には待ち伏せされる。そんな毎日で、雅輝は、気持ちが落ち着く暇もなく、杏樹にも会社でしか会えず、参っていたのだ。

「雅輝さん…。」

 名前を呼ぶと、ギュッと抱き締める力が強くなる。

「杏樹…。」

 呼び返され、乱暴に唇を塞がれる。両手で頬を包まれ、手から伝わる温もりは優しいものたが、何度も何度も角度を交えて唇に与えられる熱は激しく、杏樹は、こたえるのが精一杯だ。

「んっ……。ん。まさ…きさん、…んっ。」

 口から甘い声が出るのを抑えきれずにいると、さらに、キスが深くなり、苦しくなり抵抗してみてもさらに激しくなるだけだった。

「はぁ……。んっ……。雅輝さん…。」

 唇が解放された時には、杏樹は激しく息があれ、立っているのがやっとで、雅輝に寄りかかる。

「ごめん。……二人っきりはダメだね…。」

「……でも、嬉しかった…キス。」

 申し訳なさそうに言う雅輝に、杏樹が真っ赤になりながら答えると、口を手で抑え、ニヤケる顔を必死に隠す雅輝がいた。

「杏樹と一緒にいれないことが、こんなに、辛いなんて。好きなことが出来ないことがストレスになるなんて…思ってもなかった。」

 不意に言われた言葉に途端に胸を締め付けられそうになる。

「自分で決めた道なのに、自分で考えて出した答えのはずなのに、すごく窮屈に感じるんだ。……それなのに、次々に色々起こるから……ごめん、本当、情けない…。」

 杏樹は、雅輝をギュッと抱き締めた。雅輝が抱えるものは想像できないほど大きいものだと、杏樹はわかっている。自分は包み込むことしか出来ないが、この大きな体を守りたいと思った。

「教会の件は任せてください。クリスフォード・アラン氏には私が連絡を取ります。」

「……連絡、取れるのか?」

「……。もうひとつの目玉、和風ホールのことを考えましょう。」

 杏樹は、雅輝の質問には笑顔を見せるだけであったが、和風ホールのことを言われ、気持ちを切り替えたのだった。
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