乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
二人に仕掛けられた罠
 電話を受け、病院に駆けつけると病室で横になる連条社長の近くに、悠一と年輩の男性がいた。

 悠一と良く似ており、杏樹はすぐに、まだ会っていない悠一の父七瀬税理士だとわかった。二人に気がつくと、悠一の父が頭を下げた。

「七瀬さん、側にいてくれてありがとうございます。」

 雅輝が頭を下げながら、自分の父の顔を確認し少し安堵したように呟いた。

 二人は倒れて病院に運ばれたとしか聞いてないから、連条社長の様子がどんな感じかは分からなかった。

「親父が何で…。どこか悪かったのか…?」

 雅輝は何で、どうして、何があったのか、頭の中がぐちゃぐちゃで、そのまま口に出してしまう。たくさんの器具に、たくさんのチューブに繋がれ、痛々しい姿に、杏樹はただ見ていることしか出来なかった。

「出張から帰るときに電話を貰って、連条の家に寄ったんだよ。二人で話をしているときから胸を気にしていたから、病院にいった方がいいと促してから、客間に寝たんだけど。朝、起きたらリビングで倒れてて…。」

 そう言ってうなだれる悠一の父。不意に、悠一は杏樹に人数分の暖かい飲み物をコンビニまで買いに言って欲しいと頼んだ。

 杏樹も馬鹿じゃないから、自分がいては話し辛いことがあるのだと理解し、素直に従った。雅輝は、すまなそうに杏樹を送り出した。

「……。杏樹がいたら話し辛いんだろ?」

 雅輝の言葉に、悠一と悠一の父は眠っている社長を見て話し出した。

「フランスの会社の話だけど。」

「ああ、親父の友達だろ?株を持ってる。」

「その友達って言うのが、結城あやめの本当の父親のクリスらしい。」

「……はぁ!?」

 悠一の突飛もない話しに雅輝は大きな声を出して、慌てて口を押さえた。悠一の顔を見るが嘘を言っているような顔には見えない。

「……それで、なんか不都合があるのかよ。」

「馬鹿!!大有りなんだよ。」

「だから、何で!!?」

 二人の声がどんどん大きくなる。悠一の父が"止めないか。"と制すると、お互いにそっぽ向く。

「雅輝くん、俺は昨日まで知らなかった話があるんだ。」

 雅輝は悠一の父の方をみた。

「私はクリスとはあったことないし、顔も知らない。でも、クリスが連条と気が合い、ラポールの保証人として協力してくれ、株の10%をクリスには保有して貰ったのも、私は知ってる。でも、自分達子どもを結婚させようと約束していたのは、知らなかったんだ……。」

 雅輝は絶句した。
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