乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
「……それは、親父たちが勝手に約束したんだろ?」

 雅輝は手を震わせながら、社長を見ながら言う。

「ああ、連条も結城さんにそう話したそうだ。だがクリスが、株を結城さんに譲ると言い出した。もし、株を譲られたらラポールの社長は結城さんになる。結城さんは、社長になったら社員には容赦しないと言ったそうだ。だが、副社長と娘が約束通り結婚すれば、株は副社長に渡そう、3日待つと言ったみたいだよ。」

「3日…?」

 雅輝は期日を聞いて、項垂れた。そんな短時間でクリスと言う人物を探すことは不可能だ。それ以前に、手術を免れたとは言え、いまだ目を覚まさない社長がどうなるか分からない。

 3日という、期日が雅輝の肩に重くのし掛かった。



「えっ?連条社長が倒れたのですか!?」

 あやめは、のんびりとリビングで、コーヒーを飲む父に目を見開きながら言う。

「何をのんびりされてるの?あんな話をしたばっかりに…。」

 あたふたするあやめに対し、それでもなお、のんびりとコーヒーを飲む父。含み笑いをしながら、一枚の動画をあやめに見せた。

 その動画を一瞬見た時、あやめは目を疑った。

 杏樹と良く似た女性…というか杏樹本人に見える女性が、外国人の男性と寄り添い、耳元で会話をすると、二人で濃厚なキスをすると言う動画だった。

「なっなんですの!これ!?」

「よく、撮れてるだろ?しかも、本人と見間違うくらい似ている……。これを見つけた時は、神様が味方してくれてると思ってしまって、笑ってしまったよ。」

「えっ?これは誰なんですか?」

「知らん。」

 あやめはすぐに、父の言わんとすることが分かり、微笑んだのだ。

「お父様ほど、恐ろしい方はいらっしゃらないわ。」

「もう、今ごろ会社の皆が見てる頃だろ。」

 あやめと父はお互いに不敵に笑った。父がどうしてラポールが欲しいのか分からないが、自分も父と同じで雅輝が欲しい。

 だから、誰が傷つこうが、嘘で塗り固められた事実でも、構わない、あやめはそう思い、ラポールまで足を運んだのだ。



 オフィスーRーラポールは、ちょっとした騒ぎになっていた。
 朝、出勤しパソコンを起動すると同時に流れ出した杏樹と思われる女性の動画に、社長の入院。

 杏樹の事を元々疎ましく思っていた社員や、副社長に気持ちを寄せる社員などが、杏樹に対して不信感を露にし、社長の入院より波紋を呼ぶことになった。
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