乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)

 何も知らない杏樹と雅輝、悠一が出社してくると、オフィスに入るなり、三人は会社の中の異様な雰囲気をすぐに察知した。

 入り口には、なずなと五嶋が三人はを今か今かと待っていたように、走ってくる。その気迫から何かあったのだろうと感じるが、それより先に、三人の前に風のように、あやめが現れた。

ーバチーンー

 一瞬の出来事だった。あやめが杏樹の頬を叩いたのだ。

 杏樹は、すぐには理解出来なかったが、暫くし頬に手を当て叩かれたのだと理解した。

「なっ何するんですか!?」

 頬に手を当てながらあやめを睨み付ける。

「私、あなたみたいな、最低な女見たことありませんわ?これ、どう説明しますの?」

 あやめは、ケータイに映った動画を杏樹に叩きつける。

 その動画を杏樹は見て、驚いた。見に覚えなんて本当にないからだ。

「違いますよ、私じゃありません!!」

「良く見なさいよ!このネックレス、今日あなたがしてるのと同じじゃない?珍しいものでしょ?これ。」

 あやめに拡大されて見せられた動画には、胸元に杏樹が今日している、ステンドグラスの1点物のネックレスが光っているのを見て、杏樹は息を飲んだ。

 その顔をみんなは見逃さなかった。

(これって、ママなんじゃ?えっ、でも、ばれたらまずい動画だよね…。でも、なんでこんなものが。)

 考え込む杏樹を見るみんなは、浮気の言い訳でも一生懸命考えているように見えた。

「私じゃありません。」

「はぁ!?今、考え込んでたわよね?じゃ、このネックレスはどう説明するのかしら?」

「……分かりませんけど、私じゃありません。」

 毅然とした態度で言い切る杏樹だが、周りには疑いの眼差しを向けられる。

 雅輝に触れようとした瞬間、杏樹のその手を雅輝が振り払った。今まで、一度だってそんなことされたことなかった杏樹は、驚いて手を引っ込める。

「…雅輝さん。」

 杏樹の弱々しい声と、杏樹を拒否した事実に、あやめは心の中で嘲笑った。父のシナリオ通りだと。

「杏樹、話しは後で社長室で聴く。社長が倒れて今、忙しいんだ。」

「……分かりました。」

「それと、結城さんもお帰り下さい。私と杏樹の問題ですから。」

 あやめはこれからの二人の行く末を見たい気持ちを、グッと堪えて、雅輝に父からの伝言を伝える。

「帰ります。……それと、あと3日ですからね。連条さん。」

 それには雅輝は答えず、エレベーターに向かって歩き出した。あやめも、入り口向かって歩き出す。その顔には、勝利を確信したような笑顔に満ちていた。
< 92 / 116 >

この作品をシェア

pagetop