うっせえよ!





実家を前にすると、懐かしい匂いがした。



もう9月なのに、まだ蚊取り線香を炊いているようで、庭先にいても漂ってくる。



この蚊取り線香の匂いが私は好きだ。



そんな好きな匂いの中に、好きな人といる。ひだまりのような幸せ。



まあ、当の本人は緊張しまくっていて、手と足が一緒に出てるけど。



でも、大丈夫。



私は誠司さんの手をぎゅっと握った。



「誠司さん。手、震えてますよ?」



「だらしないよな。情けないよな、こんなんじゃ。」



「いいんですよ。それでいいんですよ。誠司さんが不安な時は、悩んでる時は、今みたいにこうやって手を繋いであげます。だから、離さないでくださいよ? ちゃんと強く握っててくださいよ?」



誠司さんは大きく深呼吸をした。



「ああ。わかってる。離さないよ。」



そう言った顔は、いつもの誠司さんの、私の好きになった人の顔だった。



本当は私だって怖い。結婚を認めてもらえるかどうかなんて、親の気持ちなんて、親になってない私にはわからない。



だから、不安なんだ。でも、初めは誰だって不安なんだ。



結婚すると決めた時、一番にやってくる不安がきっとこれなんだ。



そして、これからもっと不安になる時がやってくる。



そんな時、今みたいにこうやって手を繋いで歩んでいきたい。



玄関のチャイムを鳴らした。「はい、はーい。」と声が返ってきた。



毎朝、布団にうずくまっていた私を起こしてくれた、懐かしい声だ。




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