隣にいたのはあなただった
 「ご馳走様でした。大輝ママのご飯やっぱり美味しい~」
目の前のカレーを平らげて、私は言った。
「そんなに褒めてもらったら作ったかいがあったわよ。大輝も菜穂も何にも言ってくれないんだから」
大輝ママはそう言って苦笑いすると、スリッパの音をさせながら台所に向かった。何度も来ている後藤家。大きなテレビとソファー。オレンジっぽいライトで照らされたリビング。昔から何も変わっていない。本棚の上には私と大輝と菜穂ちゃんの小さい頃の写真。3人で腕を組んで楽しそうに笑っている。これは近くの小学校で行われた夏祭りでの写真だったはずだ。
「この写真うちにもあるよ。夏祭りか〜いいなぁ」
ぽろっとこぼれた私の言葉を菜穂ちゃんは聞き逃さなかった。菜穂ちゃんはやっとのことでカレーを食べ終わると、お茶をいっきに飲み干す。
「夏祭りは一緒に行けないけど夏らしいことしようよ。お兄ちゃんが買ってきた花火あるんだ」
そう言うと菜穂ちゃんは私の手をひいて玄関へ向かった。手持ち花火なんていつぶりだろうか。確か大輝と菜穂ちゃんと中学生の時にしたのが最後だったと思う。玄関にある物置の扉を開くと何種類もの花火の入った大きな袋が目に入る。
「大輝、ずいぶん大きな花火買ってくれたんだね」
「いらないっていったんだけどね。受験勉強の息抜きも必要だって」
そう言う菜穂ちゃんの顔は嬉しそうだった。玄関のドアを開けようとした時、大輝ママが台所から言う。
「虫よけスプレーしときなさいよ~」
私も菜穂ちゃんも思い出したかのように虫よけスプレーをかけあう。
その匂いはなんだか懐かしい。
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