隣にいたのはあなただった
家の前に出るとお昼とはまた違った蒸し暑さを感じた。しかし太陽が出ていない分暑さはだいぶんマシだ。もう20年ここに住んでいるのだから見慣れた風景だが、相変わらず夜はここらへん一帯真っ暗。田んぼと田んぼの間に数本電柱の明りが灯っているだけだ。
「さ、始めよう」
菜穂ちゃんの声と一緒に花火の袋を開けるバリっという音が聞こえる。目はまだ暗さになれず菜穂ちゃんがうっすら見える程度だが、そのかわり耳はよく聞こえていた。いつも気にしていなかった虫の鳴き声がいつの間にかこんなに大きくなっていたなんて……すっかり夏が来たんだなと改めて実感する。
「ロウソクつけて」
菜穂ちゃんからマッチを受け取って、ロウソクに火をつける。温かいオレンジの光が私と菜穂ちゃんの顔を照らす。それを確認すると菜穂ちゃんはカラフルな持ち手の花火を私に渡した。顔を見合わせて、二人一緒に火をつける。
 チリチリ チリチリ
シュワッ
と少し大きい音をたててオレンジの光は青い光に変わった。
「ついたついた!」
菜穂ちゃんはそう言って片方の手の新しい花火にまた火をつけた。私も片方の手に花火を持つ。辺りはすっかり明るくなっていた。
「こっちの花火は赤いよ!」
「本当だ~、色変わるんだね」
二人とも久しぶりの花火だったからだろうか。なんだか幼い頃に戻ったみたいだった。
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