こうして僕は、君に泳がされている

「許可制だったの?知らなかった。」
「今更?十年も前から、やめてって言ってるでしょう?」
「ごめん、いい加減許してよ。それより、僕の質問に答えて。今日は、仕事休みなの?」

おどけたように尋ねれば、またもや冷たい彼女の返答。それでも、強引に最初の質問を繰り返した。

「……たまたま、代休取らされただけ。」
「そう。テレビ、見てた?僕の試合。」
「……テレビつけたら、やってたから。」

急に一拍遅れて返ってくるようになった彼女の言葉に、僕は一段と機嫌を良くする。少し迷うように捻り出された言葉は、それが真実ではないことを教えてくれる。

「ねえ、遙。どうして今日は電話に出たの?」

僕が一番に聞きたかったことを尋ねる。きっと、君なら僕が望むとおりの言葉をくれるだろう。

「……たまたま、暇だったから。」
「何それ。僕の電話にいつも出てくれないのは、忙しいから?」
「そうよ、いつも忙しいもの。」
「だったら、明日の代休は返上しなよ。もう、僕は泳げないから。」

予定では、僕は明日決勝のレースを泳いでいるはずだった。僕の指摘が図星だったのか、電話の向こう、遠く海を隔てた先の君が、言葉を無くして黙り込むのが分かった。思わずクスクス笑いを漏らしながら、僕の心は瞬く間に晴れ渡っていった。

早くコーチと話をしよう。もう一度、世界を相手に戦いたい。そのために、僕は何だって出来るような気がしていた。

願わくば、四年後。
彼女に最高の泳ぎが見せられるように。
それまでに、水泳だけじゃなくて彼女との関係も進歩させなくては。
僕はすっかり、いつもの前向きさを取り戻した。




こうして、僕は君に泳がされている。

【END】
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