イジワル御曹司のギャップに参ってます!
はぁ、と流星がため息を漏らしたのが聞こえた。
髪をくしゃくしゃと掻き混ぜながら、面倒くさそうにうなだれる。

「あなたたちかぁ。とりあえず『ラブ・キャッスル』は見てきたから、そろそろ帰ろうか」

「待ってください」

制止したのは市ヶ谷くんではない――青山さんだった。
流星の前に進み出て、彼を正面からしっかりと睨み付けた。
物怖じしない彼女は行動パターンが掴めなくて、ハラハラさせられる。

「私は、まだ『ラブ・キャッスル』を体験していません」

「かまわないよ。俺と朱石さんさえ内容を分かっていれば、業務に支障はないだろうから」

「ここまできたのに、私だけ、何も得ずに帰れというんですか?」

彼女は冷静に、淡々と、流星――いや、彼女にとっては『氷川』なのだろうが――に詰め寄った。
彼相手にここまで堂々と立ち向かえるのは、正直すごいと思う。
私だって、氷川に物言いするには、ちょっとした意気込みが必要なのに。
長い年月、仕事を共にしてきた関係は、だてじゃないということかもしれない。

流星――それとも氷川だろうか? 彼の眉が、少しだけ神経質そうにピクリと跳ねた。

「それなら、あなたと市ヶ谷くんで『ラブ・キャッスル』へ入ってくるといい。
私と朱石さんはここで待っているから」

「私は、流星と入りたいのですが」

え……?

思わず目を見開いて、自分の耳を疑った。
今青山さんは何と言ったか。

『流星』と――下の名前で呼ばなかったか?

流星の目がすっと細くなった気がした。
表だって感情を出す様子はない。だから彼が何を考えているのか想像がつかないけれど、でも彼の中の何かが触れた、そんな気がした。
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