イジワル御曹司のギャップに参ってます!
次の瞬間、青山さんがハッと私の後ろへ視線を投げた。
つられて振り返ったそこには、ビルの入り口から出てきた氷川の姿。どうやら仕事が終わったようだ。

「とにかく、付き合ってもないし、好きでもないなら、氷川さんに近づかないでもらえますか! 目障りなんです!」

青山さんは、これ以上にない剣幕で私を押しのけたあと、氷川のところに向かって一目散に駆け出した。

私は氷川に見つからないよう、慌てて植え込みの陰に身体を沈め、二人の様子を見守る。

青山さんが、偶然を装いつつ、氷川の斜め背後から声をかける。
氷川の、「あっ」というような少しだけ驚いた顔。
二人は、一言二言交わしたあと、並んで人混みの中へと紛れていった。

あーあ。行っちゃった。
二人の後ろ姿に、またしても虚しいような、寂しいような、複雑な感情がよぎる。

デート、か……

そういえば氷川とふたりで食事なんてしたことがないから、彼が女性をどういうお店に案内する人なのかも知らない。
気遣いのできる人だから、ちゃんと女性の喜ぶ場所に連れて行ってあげるんだろうな。
昔は付き合っていた二人なのだから、気合いの入ったレストランよりも、割とフラットな飲み屋かもしれない。

それとも――
自宅に招いたりするのかな?

なんだか息が苦しくなって、私は唇を噛みしめた。

氷川の部屋は、女の子を連れ込める程度にはそこそこ片付けられていたし、朝ごはんも手慣れた感じで出てきたし。
ひょっとしたら、女の子を泊め慣れているのかもしれない。

て、何余計なこと考えているんだろう、私は。
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