イジワル御曹司のギャップに参ってます!
なんで……?

仕事上、彼を下に見ていたせいか、小さくて細くて頼りないイメージを抱いていたけれど。
このときばっかりは、男の子らしく力強い腕とか、私よりだいぶ大きな身長とか、私なんか覆い隠してしまえるくらいの広い肩幅とか、やたらと意識してしまって。
守るべき対象が突然『男性』に見えてしまった不調和。
うつむく市ヶ谷くんの少し茶色がかった前髪が瞳に影を落としていて、余計に大人っぽく感じられる。

「……氷川さんに、近づかないでください」

市ヶ谷くんが真剣な声色で呟いた。

「どうして……?」

言葉が出たのが奇跡だと思った。
不安でたまらない。
市ヶ谷くんは怖くなんかないのに、私に酷いことなんかするはずないのに、それでも恐怖に苛まれてしまう自分自身が嫌だった。

「あの人、先輩を壊しちゃいそうだから」

市ヶ谷くんが、泣きそうな声を出した。

「俺の大好きな先輩の、明るくて強くて優しいところとか、なんだか毒されちゃいそうで、触って欲しくないっていうか……」

私の肩にこつん、と額を寄せて言う。

「ごめんなさい。ただの嫉妬です」

そう告げると、一歩下がって私の身体を解放した。
うつむいたまま躊躇。やがて彼は逃げるようにして非常階段の扉を飛び出していった。
重苦しい扉が大きな音を立てて閉まり、縦に長い空間に反響し、私だけがその場に残された。
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