イジワル御曹司のギャップに参ってます!
解放された途端、呼吸が荒くなって、私はその場にへたり込んだ。
胸の前でぎゅっと手を握る。びっくりしたけど大丈夫。怖くはなかったはずだ。深呼吸。

冷静さを取り戻し始めて改めて、さっきのはなんだったのだろうという疑問が沸き上がってくる。

私のことを、大好きだと。
嫉妬だと、言っていた。

先輩を取られたくないってことかな?

たしかに今までも、市ヶ谷くんは氷川に対して異様なまでに噛みついてきた。
それはライバル心なのだろうか。
男特有の、負けたくないプライド的な何かがあるのだろうか。

それとも、お母さんを取られたくない子どものような感覚?

そう考えたら、市ヶ谷くんが可愛らしく思えてきて、ふっと口元に笑みが零れた。
もちろん触られるのは嫌だけど。
でも、甘えられるのは嫌じゃない。

市ヶ谷くんと氷川のどちらかを選ばなければならなくなったとしたら――答えははっきりしている。
市ヶ谷くんと私の間には、ずっと一緒に手を繋いでやってきた歴史があるもの。
だから市ヶ谷くんが、氷川に近づかないでと望むなら、従うのもいいかもしれない。
結局、氷川は私に対して陰湿で冷徹だし、夕べの彼との思い出なんて、何かの間違いだと思って記憶から消してしまった方が楽だろう。
優しくて、夢に溢れた氷川なんて、やっぱりこの世にいなかったんだ。

私は立ち上がり、腰をパンパンと叩いた。
オフィスに戻ろう。
いつもの私に戻ろう。
氷川の敵で、市ヶ谷くんの味方である、強い私に。


オフィスに戻るとそこは相変わらず賑やかで、戦場のように慌ただしくて。
私の迷いなんて、あっという間に忘れさせてもらえた。
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