『ココロ彩る恋』を貴方と……
何も言わずに黙っていたせいだろうか。兵藤さんの方から気をかけてくれた。


「これそうなら来て下さい。君はモデルが嫌いだと言ったけど、今回はそれだけではないから」


その言葉に驚き、弾かれるように彼を振り返った。

事故以来、彩さん以外のものは掘れなくなった…と、河井さんは確かにそう言っていた筈なのに。


困惑している私の顔を眺め、兵藤さんの顔が和らぐ。

うっすらと微笑を浮かべ、すぐに食事を再開しだした。


その姿を目にして、胸がぎゅっと掴まれる。

明日が最後の出勤なんです…と言うなら今しかないけど、それを口にするのが怖い。

黙ってやめるのは社会人の常識に反しているとは思う。でも、どうしても口にできない。


(本当ならきちんとお礼を言って、拙さを謝らなければならないのに……)



言えない……。言いたくない……。


口にしてしまうと返って決心が鈍りそうな気がする。

踏み込みたくないと思って代わってもらうことを決めたのに、それすらも後悔してしまいそうになる。


(私は単なる家政婦なんだから任期が終われば交代することだってあり得る。雇い主が命じることだってあるし、自分から変わらせて欲しいと頼むことだって可能だ……)


頼んだのは今回が初めてじゃない。

とあるトラウマのせいで、何度も同じことを繰り返している。


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