『ココロ彩る恋』を貴方と……
森元所長の奥さんには、それを言わなかったらしい。


(どうりで会った時に不思議そうにしていた訳だ……)


一つ疑問が減ってホッとした。


「もう一色だけの食事じゃなくてもいいよ。難しいことを言って済まなかったね」


謝る兵藤さんに「いえ」と恐縮しながらも躊躇う。



(料理は苦手なんです…と、あの時に言ってしまえば良かったのに……)


相変わらず包丁捌きが上手くならない。どんなに回数をこなしても、料理が上達しない自分が恨めしくて仕方ない。


(河井さんの話では、兵藤さんは料理が得意だということだったけど……)


確かにあの茶碗蒸しは美味しかった。
祖父が作ってくれた物と同じように、丁寧に出汁が取られていたと思う。


(お料理教えて下さい…と頼んだらいけないかな……)


祖父にはそれが言えなかった。
私に美味しい物を作って出すのが、祖父の生き甲斐みたいに思えたから。


(そのせいで糖尿病になった様なもんよね……)


料理人の悲しい性だと言っていた。
『贅沢な物食べてきたからだよ』と、祖父はそう言って笑っていた。



(あの足は笑えるもんじゃなかったけど……)


小さな傷が癒えなくなって、そこから足が黒ずんできた。

糖尿病の末期症状です…と医師に言われ、このままだと血栓を作って命が危ぶまれてしまう…とまで言われた。


< 220 / 260 >

この作品をシェア

pagetop