『ココロ彩る恋』を貴方と……
どんぶり勘定だった祖父の店は、収入よりも支出の方が多かった。


「いい食材を使って調理をするのが好きな人で、テーブルにはいつも五色の料理が並んでいました。
味も彩りも豊かで、どれを食べても飽きなかった…」


記憶の隅に残っている祖父の料理の数々。
その中で一番最初に作られた物を思い出し、胸がきゅん…と切なくなった。


「前に兵藤さんが作ってくれた茶碗蒸しは、お爺ちゃんが最初に作ってくれた物と同じでした。

具が入ってなくて、卵液を蒸しただけの物。
保護された養護施設から引き取られて、一番最初に出された料理です。

……出汁の香りがして美味しくて、優しい味で……涙が溢れて止まらなかった……」


鼻腔に残る鰹節と昆布の香り。薄い醤油の風味も加わって口溶けが良くて滑らかだった。


「こんな優しい料理があるなんて知らなかった…。やっと幸せになれるんだと思うと………心からホッとしました……」


両親の愛情を知らずに育った。

劣悪な環境で生きてこれたのは、気紛れながらも母が私を顧みてくれたからだと思う。


「前にも言いましたけど、祖父は本当に私に甘くて、家事を一切させずに育てました。

一言だってやりなさいと言わなかったし、手伝っても言わなかった。

お店もあって忙しかった筈なのに、思いきり遊ばせてばかりいました。

おかげで社会に出てからは苦労しました。お爺ちゃんが悪い訳でもないのに、甘やかされてきたのね…と言われて……」


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