『ココロ彩る恋』を貴方と……
泣きじゃくる私を彼は何も言わず抱きしめてくれた。

満たされない心を満たしてくれる人が、此処にもいるんだと思うと嬉しかった。



「……すみません……馬鹿みたいに大泣きして……」


祖父が亡くなって以来だった。
肉親もいない私には、泣き縋れる人もいなかった。



「…いいよ…別に……」


兵藤さんの声はどこまでも優しくて深い。
この人の目に映れるようになっただけで、十分幸せなことなのにーー。


「兵藤さんは…どうして私をこの家に呼んだの?ただ片付けをしてくれる家政婦が…欲しかっただけ?」


知らないうちに口から飛び出していた。

一旦出した声は取り返せず、覚悟を決めて彼が答えるのを待った。




「……家政婦なんて思ってないよ。元から要らないとも言ってる」


そうだった。
初めての面接日で要らないと言われたんだ。


「それじゃ何ですか?…亡くなった妹さんの代わりに優しくしてくれるんですか?」


家族がいても孤独だと知ったから?
私が辛い経験をしてるから?


「彩だと勘違いしたことはあったよ。今でもそれは悪かったと思ってる。

あんなことが二度とないよう気を引き締めてきたつもりだし、今だってずっと…堪えてきてる」


「何を?」


私を彩さんと間違えないように?
勘違いを起こしてしまわないように?



「君を……」


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