甘い恋じゃなかった。
と決意したのはいいものの。
同じ本社でも、部署の違う牛奥と会うことは少ない。ただでさえ、牛奥は大体外に出ているし。
というわけでその日は結局牛奥と話をすることは叶わず、私は家に帰ってきた。
「はぁ〜…」
お風呂上がり。ソファに座りため息をつく私に、ちょうど部屋から出てきた桐原さんが鬱陶しそうな目を向けた。
「ため息でかい。うるさい」
「すみませんねー」
落ち込んでいる時くらいそっとしといて欲しい。
冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出した桐原さんが、「で?」と再度視線を私に向ける。
「で?とは」
「何に落ち込んでんだよ。うざいから話せ」
…一応聞いてくれるらしい。
「あー…実は牛奥に避けられてて」
「はぁ?あぁ、俺と一緒に住んでるのバレたからか」
「え、何で分かるんですか」
「そりゃまぁ、分かるわ」
ふーん。分かるんだ。
「…で、それで落ち込んでんの?」
「そりゃ…まぁ。牛奥は大事な同期だし」
「…ふーん」
…あれ。気のせいかな。
なんだか、桐原さんの声の温度が少し下がった気がする。