甘い恋じゃなかった。
「明里ちゃんも珍しくこの土日来てないし…もしかして喧嘩でもしたの?」
「…してませんよ、別に」
数日前、ちょっとした言い争いになったことを思い出す。あれを喧嘩というのだろうか。
あれから仕事が忙しかったこともあり、アイツも残業続きだったりして、まともに顔を合わせていない。
だけどきっと、週末にはいつものようにミルフィーユに来るものとばかり思っていた。
もしかしてまだ怒ってんのか?
いや、ていうか俺のことに構ってる暇なんてない、告白の返事を考えるのに忙しいのかもしれない。
いやむしろ、もう返事なんてとっくにしてて、今頃デートとか…
「…らくん?キララくん!」
気付くと師匠が俺を怪訝そうに見ていた。…どうやらまた、トリップしてしまっていたらしい。
「本当に様子おかしいね、今日は」
「別に…おかしくなんてないですよ。普通です、普通!」
…牛奥のことを話すとき。赤くなっていたアイツの横顔を思い出すと、なんともいえないモヤモヤした気持ちに襲われる。
アイツの恋愛事情なんて心底どうでもいい。俺には関係ないことだし。
ただ、そういう方面の経験が全くなかったアイツをからかうのが楽しかったのに、それがなくなるかもしれないのが、多少癪なだけだ。
そう、それだけだ。それだけ…
カランコロン♪
聞き慣れた鐘の音にもしやと顔を上げると、そこにいたのは
「…お久しぶりです。桐原さん」
予想外の人物だった。