甘い恋じゃなかった。
「…牛奥「あぁっ!!明里ちゃんの二股相手のイケメ…モゴ」
俺を遮って余計なことを口走り始めた師匠の口を慌てて塞いだ。
「今、いいですか?」
緊張した面持ちの牛奥。
どうやら、近所に来たからフラッと寄ってみたわけではないらしい。
「…一人か?」
「そうですけど」
ふーん、アイツと一緒じゃないんだ…。
何で俺。
少しホッとしてんだよ。
「どーぞ」
そんな自分がやっぱりワケが分からない。
前のカウンターを手で示すと、牛奥が緊張した面持ちで腰掛けた。
…ていうか一人でミルフィーユに、何の用なんだ?いや…俺に用があるのか。
「…ご注文は」
「えーと…アイスコーヒーで」
「ケーキセットもありますが」
「ケーキはいいです。甘いもの得意じゃないので」
「ならば!!」
グイッと横から突然割り込んできた師匠。
「軽食もございますよ!
おススメは“店長の手作りカレーライス”ですが!?」
「あ、じゃぁ…それで」
「かしこまりましたァ!!」
師匠の勢いに押されカレーもオーダーするはめになった牛奥。
師匠は、今一番力を入れているカレーライスのオーダーを取れて嬉しそうに厨房に入ってゆく。
俺的にはもっとケーキに力を入れて欲しいのだが…。
「あの」
牛奥が、少し躊躇いがちに、だけどしっかり意志のある瞳で俺を見つめて、口を開いた。
「話したいことが、あるんですけど」