甘い恋じゃなかった。
「…何でしょう」
俺もカウンターの内側にある椅子に腰掛ける。
「あの…その前に、こないだは本当にすみませんでした。俺相当ご迷惑をおかけしたみたいで」
「あー、まぁ」
あの俺をゲロまみれにした件だろう。
人にゲロまみれにされたことは生まれて初めての経験で、なんていうか…思い出すだけで吐きそうだ。
「それで」
青ざめているであろう俺に気付いているのかいないのか、牛奥が続ける。
「聞きました、小鳥遊から。桐原さんと同居していることも、その理由も」
「…それで?」
「卑怯じゃないですか?」
…まぁ、こういう話だろうとは何となく予想していた。
「卑怯?」
「あなたと、小鳥遊のお姉さんの間に何があったのか、詳しくは知りませんけど。
でもだからって、全然関係ない小鳥遊をその件で脅して無理矢理家に転がり込むなんて…卑怯だし、男のすることじゃないと思います」
…男のすることじゃない、ね。
俺を挑むように見つめる牛奥の瞳はやけに真っ直ぐだ。
…あー、こういう真っ直ぐな奴って、本当に疲れるんだよな。