甘い恋じゃなかった。
「…すごい。マロンクリームが濃厚だった分、オレンジの爽やかさが引き立ちますね…!」
食べ終わりは何とも言えぬ爽やかな気分だ。
「…って、お前食うの早いな…」
桐原さんがもう半分以上なくなった私のモンブランを見て呆れた顔をする。
「美味しすぎて気付いたら無くなってるんですよ!?どうしたらいいですかね!?」
「知らねーよアホ」
あっ…アホ!?
人が真剣に悩んでいるというのに!!
だけど不思議だ。
美味しいケーキを前にして、怒る気持ちはみるみる萎んでいく。
「すごいですよねぇ、ケーキって…」
「は?何を突然」
「だってケーキを食べて怒る人なんていないでしょ?ケーキを食べた人ってみんなニコニコしてるじゃないですか?」
「…そうか?」
「そうですよ!
世界平和!ですよ!!」
力説する私に、桐原さんは一瞬きつねにつままれたような顔をして、ふ、と僅かに口角を上げた。
「…大袈裟」
「全然大袈裟じゃないですよ!!」
力強く拳を握りついでに、モンブランをパクっと口に含む。
ふと皿を見ると、私の皿から跡形もなくモンブランが消えていた。
…え!?まさか今のが最後の一口!
うわぁ最後の一口はもっと大事に丁寧に食べるつもりだったのに、つい…!!