甘い恋じゃなかった。
私がずっと望んでたこと。
そうだよ?
その通りだ。
ずっと、早くこんな同居終わればいいと思ってた。
でも。
「ずっとは…ずっとじゃなかったんです」
「…は?」
「気が変わったって言ってます!」
一瞬ポカンと呆気に取られたように口を開けた桐原さんが、眉をグググとひそめて「お前な…」と何かを言いかけた。言いかけたけど、それはざわめくのを通り越して騒ぎ出した女子高生軍団によって遮られる。
「ちょっとキララ王子!?この人と同棲してるの!?」
「やだ~、王子はみんなのものなのに!?」
「出ていったのに追いかけてきたってことは…ストーカー!?」
ついに犯罪者かよ。
桐原さんは暫く険しい顔で私を見つめていたが、女子高生にコックコートを引っ張られニッコリと笑顔を作った。
「みんな、今日はもう遅いからそろそろ帰ったら?」
「えー?まだ早いよ~」
「親御さんが心配するよ?ほらほら」
天使の微笑みで女子高生軍団をドアから外に追い出す桐原さん。
「またのご来店をお待ちしております」
極めつけの完璧な礼とスマイルに、ノックアウトされた女子高生軍団は頬を赤く染めて帰っていった。
そして。
クルリと桐原さんが私を振り向く。さっきまでとは別人のように険しい顔だ。
「…閉店だ。お前も帰れ」
「え、ちょっとまだ話が…」
終わっていないのに、桐原さんは私を置いて厨房に入っていってしまった。
「アラァ~」
置いてけぼりになった私に、店長が労わるような視線を向ける。
「なーにー?痴話喧嘩ぁ?」
黙っててくれ青メガネ。