甘い恋じゃなかった。







「この書類決裁から戻ってきてたけど」


「ん…」


「早く入力した方がいいんじゃない?」


「ん…」


「…今日の昼ごはん奢ってくれない?」


「ん…」


「…はぁ。ちよっと、しっかりして!」




パンッ!と目の前で手が叩かれて、ハッと我に帰ると、莉央が呆れた表情で私を見ていた。


「ボーッとしすぎ。そのうち課長にどやされるよ」


「あ…ごめん」


「ったく…昨日桐原さんに会いにいったんでしょ?どうだったの?」


「どう、って」



どう…だったんだろう。


桐原さんはいつも通りで。まるでいつも通りだった。私との同居が終わっても。


私はというと、なぜか、こんなにも動揺しているのに。


私だけが、ペースを乱されている。



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