人事部の女神さまの憂い

家に近づいてきて、今日も飲んでいくかな、と期待して横を見るとポケットからスマホを取り出して何やら画面を見て、チッと舌打ちをしていらっしゃる。なんだろうと思って暴君を見上げると

「あー、せっかくこれ飲もうと思ったのに」

鞄から裸のままの焼酎を1本取り出し、ほら、と言ってその焼酎を手渡された。

くそー今日はおあずけか、と悪態をついている暴君は飲むつもりだったけど家には寄ってかない様子。女の人から呼び出しでもあったのかな、と思ってちらっと見ても表情から私には何も読み取れない。

「残念ですね。じゃあ私が藤木さんの分まで愉しみますね」

そう言って焼酎のボトルを抱きかかえると

「バカか!お前、絶対次俺が来るまで開けるなよ。それ限定ものなんだから、勝手に飲んでたら、大分まで買いにいかせるからな!」

大声で暴君らしいセリフを吐いている。じゃあ私に渡さずに自分の家で飲めばいいじゃん、と言いかけて慌ててその言葉を飲み込んだ。なんだかんだ言っても家で飲む前提なんだ、と気付いて嬉しくなったから。

「じゃあ私が、誘惑に耐えれてるうちに来てくださいよ。ずっと置いてあったら、思わず開けちゃいますよ」

ちょっと露骨にお誘いっぽかったかなと思いながらも素直な言葉を紡ぐと、それまでちょっと不機嫌だった暴君は、おぅ、と素っ気ない反応。

でも、家の前につくまでしつこく「絶対1人で飲むなよ」と呪文のように何度も言ってから帰って行った。


早く来てくれるといいな、そう思いながら藤木さんの後姿を見送った。

< 429 / 471 >

この作品をシェア

pagetop