くれなゐ症候群
「風向きのせいかなー、午後になると、よけいにおいがキツくなるよね」

美沙がぱたぱたと、手のひらで口元をあおぐ。


「ほんとー、夏でも窓開けらんないしさ。外に洗濯物は干せないし」
奈緒も同意する。


この町に住んでいる限り、逃れられない塵芥の臭い。


「川を越えたこっちは少しマシっぽいけど。
なんかもう、自分の体にもこの臭いがしみついてるんじゃないかって、気がするよ」

美沙がうんざりと、机に上体をふせる。
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