ぬくもり
私は、ぼんやりと窓から見える景色を眺めていた。



優は、司の横でニコニコしながらお菓子を食べている。


初めての、みんなでのお出かけにご機嫌のようだ。


私が夢にまで見た、初めての家族のお出かけは、最も最悪で最低な場所。



私達は、たっぷり2時間は電車に揺られてから、更に電車を乗り継ぎ30分して目的の駅に着く。


途中、司がお昼を用意してくれたが1口も喉を通らず、私はお弁当の蓋を閉めた。


そんな私をよそに、優はいっぱい食べ、いっぱいはしゃぎ、疲れきったのか司の腕の中でぐっすりと眠っていた。



病院の名前を聞いてなかった私達は、しょうがなくタクシーで実家へと向かう。

実家に着き呼び鈴を鳴らすが、中からは物音一つ聞こえてこない。


私は苦々しい思いで家を見つめていた。


毎日のように殴られながら、泣き叫び謝っていた日々。

捨てた筈なのに、今またここに立っていた。


関係ないと言いながらも、司を振り切って家に帰る事ができなかった。



「美沙、ちょっと優代わって!」


司は私に優を預け、隣の家へと駆けて行く。


「美沙、病院わかった。
行こう!」



司は、私の腕の中の優をまた抱き上げ、どんどん歩いて行く。

私は司の後をのろのろとついて行く。



昔と何も変わってない街並み。

懐かしさと嫌悪感が、同時にこみ上げてくる。



大きい通りでタクシーを停め、病院へと向かう。


私はいよいよかと思い、タクシーの中で身体を硬くしていた。



そんな私の手を、司の大きな手が優しく包んだ。

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